「敷金・礼金なし」の物件は、問題なく借りられます。物件に欠陥があるわけでも、怪しい条件が隠れているわけでもありません。多くの場合、貸主が空室を早期に解消するために設定した募集条件であり、初期費用を抑えられる有力な選択肢です。
ただし、「敷金・礼金なしだから退去まで一切お金がかからない」というわけではありません。退去時の費用の扱いや、短期解約違約金の有無は、きちんと確認が必要です。
この記事では、敷金・礼金なし物件が生まれる仕組みから、トータルコストの正しい考え方、見積もりで確認すべきポイントまでを解説します。

最終更新日:2026年07月14日
敷金・礼金なし物件は問題ない
敷金・礼金なし(いわゆる「ゼロゼロ」)物件に対して、「何か問題があるのでは」「後から費用を請求されるのでは」と不安を感じる方は少なくありません。
しかし結論から言えば、敷金・礼金なし物件は何ら問題なく借りられます。まず、敷金と礼金それぞれの役割を整理しておきます。
敷金――退去時に精算する預け金
敷金は、退去時の原状回復費用や万が一の家賃滞納に備えて、貸主に預ける保証的な性格のお金です。退去時に費用を精算し、余りがあれば返金されます。
名古屋エリアでは家賃1ヶ月分が相場です。貸主にとっては「いざというときの担保」ですが、あくまで預けているお金であり、借主が受け取る権利のある金額が残ります。
ただし、この「戻ってくる」という前提には例外があります。「償却」が定められている物件では、退去時の損耗の有無にかかわらず、あらかじめ決めた金額(敷金の一部または全部)が差し引かれます。
償却がある場合、敷金は「預け金」というより「一部返金なしの費用」に近い性質になります。契約書に償却の記載があるかどうかは、必ず確認しましょう。
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礼金――返還されない費用
礼金は貸主への謝礼として支払う費用で、退去時に返金されません。法的な根拠はなく、昔からの慣習に基づくものです。
近年は礼金ゼロの物件が全国的に増えており、名古屋市内でも礼金なしで募集される物件は珍しくなくなっています。
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敷金は「退去時に戻ってくる可能性があるお金」、礼金は「戻ってこないお金」です。この違いを理解しておくと、敷金・礼金なし物件のトータルコストを正しく判断できます。
敷金・礼金がゼロになる背景
敷金・礼金なし物件が存在する理由は、シンプルに言えば貸主が空室を早く埋めるために条件を緩和した結果です。
空室の長期化は貸主にとって大きなリスク
賃貸経営において、空室期間が長引くことは収入がゼロになることを意味します。1ヶ月空室が続けば1ヶ月分の家賃収入がなくなり、半年になればその損失は積み重なります。
管理費や修繕積立金などのランニングコストは空室中も発生するため、貸主にとって空室は切実な問題です。
募集条件は段階的に緩和される
一般的に、貸主は最初に相場よりやや高めの家賃・敷金・礼金を設定して募集を開始します。問い合わせや申し込みが入れば、その条件で成約できます。
しかし反応が得られない場合は、次のような順番で徐々に条件を緩和していきます。
- 礼金を下げる(礼金2ヶ月→1ヶ月→ゼロ)
- 敷金をゼロにする
- 月額家賃を下げる
つまり、敷金・礼金なしという条件は「その物件に何か問題がある」サインではなく、貸主が早期成約を目指して動いている状態を表しています。物件の品質とは無関係です。
築浅・設備良好な物件でも、エリアの競合が多かったり、タイミングが合わなかったりすれば空室は長引きます。空室期間が長くなると、問題のない物件でも敷金・礼金をゼロにすることは珍しくありません。
検索フィルターへの露出増加という側面もある
SUUMOやHOME’Sなどの賃貸ポータルサイトには「敷金なし」「礼金なし」で絞り込める検索フィルターがあります。敷金・礼金なしの条件に設定することで、このフィルターを使った検索にヒットしやすくなり、物件の露出が増えます。
敷金があっても退去費用はかかる
「敷金・礼金がないと、退去時に高額な費用を請求されるのでは?」という心配をよく耳にします。これは誤解が多い部分なので、正確に整理します。
敷金がある物件でも、クリーニング費用は入居者負担が多い
まず前提として知っておきたいのは、退去時のクリーニング費用は特約で借主負担となっていることが一般的だという点です。「退去時クリーニング費用:借主負担」という特約が契約書に盛り込まれている物件は、敷金の有無にかかわらず広く存在します。
つまり、敷金がないからといって退去費用が特別に高くなるわけではありません。
敷金なしは、支払いのタイミングが前後に移動する
敷金がある物件では、入居時にまとまった敷金を預け、退去時にクリーニング代・修繕費などを差し引いた残額が返金されます。
一方、敷金がない物件(償却の定めがない場合)では、入居時に支払う費用は少なくなりますが、その分、退去時に現金で支払う費用が多くなります。敷金なしは費用がなくなるのではなく、支払うタイミングが入居時から退去時へ移動するだけと考えるのが実態に近い理解です。
退去費用の総額は、敷金の有無によって大きく変わるものではありません。ただし、入居時の負担は敷金なしのほうが軽く、退去時の負担は敷金なしのほうが重くなります(償却がない場合)。トータルの支払額はほぼ同じでも、支払うタイミングが違う点は押さえておきましょう。
敷金に「敷引き」や「償却」の定めがある物件は、ここまでの説明の前提が変わる例外です。敷引き・償却がある場合、退去時の損耗にかかわらず一定額が返還されません。
例えば「敷金2ヶ月・敷引き1ヶ月」であれば、入居者は2ヶ月分を預けても1ヶ月分しか返ってきません。こうした物件と比べると、敷金なし物件のほうがトータルで安くなるケースもあります。契約書の敷金に関する条項は必ず確認しましょう。
退去時の原状回復の負担区分については、国が示す基準も参考になります。
国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について
短期解約違約金にも要注意
敷金・礼金なし物件を検討するうえで、退去費用と並んで確認しておきたいのが短期解約違約金です。私の経験上、敷金・礼金をゼロにしている物件ほど、この条件が設定されているケースが目立ちます。
理由は貸主側の立場で考えるとわかりやすくなります。敷金・礼金をゼロにするということは、貸主にとって入居時に受け取れるお金が少なくなるということです。
その分、早期に退去されてしまうと、空室対策のコストを回収できないまま次の空室期間に入ってしまいます。
この回収できないリスクに備える意味で、「1年未満の解約には家賃1〜2ヶ月分の違約金」といった短期解約違約金を設定する貸主が多いというのが実務上の実感です。
敷金・礼金なしという条件だけを見て「初期費用が安いから得」と判断すると、短期間で退去した際に想定外の違約金を請求されることがあります。契約前に短期解約違約金の有無・金額・対象期間を必ず確認しましょう。
賃貸の短期解約違約金とは|相場・計算例・いつまでに解約すると発生するかを不動産会社が解説
礼金ゼロは確実な節約になる
敷金・礼金なし物件のコストを考えるとき、敷金と礼金は分けて評価する必要があります。
敷金は退去時に(全額ではなくとも)戻ってくる可能性があるお金です。対して礼金は返金されない費用であり、支払った瞬間にその金額は消えます。家賃8万円の物件で礼金が1ヶ月なら8万円、礼金2ヶ月なら16万円がそのまま出費になります。
つまり、礼金がゼロになることは純粋なコスト削減です。敷金ゼロが「後払いへの変更」に過ぎないのとは異なり、礼金ゼロは確実に手元に残るお金が増えます。
- 礼金ゼロ:返ってこない費用がなくなる。純粋なコスト削減。
- 敷金ゼロ:退去時に現金払いになるだけで、トータルコストはほぼ変わらない。
敷金・礼金なしでも初期費用の総額は必ず確認する
敷金・礼金がゼロであっても、初期費用の見積もりには初回保証料・消毒料・24時間サポート加入料・鍵交換費用などの項目が含まれます。なかには相場より割高に設定されているものもあるため、見積もりの全項目を確認しておくと安心です。
- 初回保証料(賃貸保証会社):相場は月額総費用の40〜60%程度
- 消毒料・抗菌施工費:相場は1〜3万円程度。任意なら断れる場合がある
- 24時間サポートサービス加入料:月額500〜1,500円、または一括で1〜3万円程度
- 鍵交換費用:相場は1〜2万円程度
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敷金・礼金がゼロでも、これらの費用が相場より高く設定されていれば、トータルの初期費用はさほど安くなりません。敷金・礼金・仲介手数料に加えて上記の費用もすべて合計した「実際に支払う総額」で判断しましょう。
初期費用ゼロ物件の実態|実際はほとんどゼロにならない理由と注意点
契約前の確認ポイント
特約欄で退去費用の条件を確認する
退去時のクリーニング費用・修繕費の負担について、特約欄に記載されています。敷金の有無にかかわらず、内容を理解したうえで署名することが大切です。
「借主負担」と書かれていても、国土交通省のガイドラインに反する過剰な請求は拒否できる場合があります。
見積もりの全項目を合計して支払総額を確認する
敷金・礼金以外の費用が適正な相場の範囲内かどうかを確認します。不明な費用や説明が曖昧な項目は、必ず不動産会社に質問してください。
類似物件とトータルコストで比較する
敷金・礼金がゼロでも、月額家賃が周辺相場より高く設定されている場合があります。同じエリア・同程度の広さと築年数の物件と比較し、家賃と初期費用を合算したトータルコストで判断しましょう。
内見で設備の状態を確かめる
敷金・礼金なし物件には、空室期間が長かった物件も含まれます。設備の老朽化や不具合が放置されているケースもあるため、水回り・エアコン・換気設備・収納の状態を内見時にしっかり確認しておきましょう。
よくある質問
まとめ
- 敷金・礼金なし物件は問題なく借りられる。貸主の空室対策・募集戦略の結果であり、物件の品質とは無関係
- 空室期間が長くなると、問題のない物件でも敷金・礼金なし条件になることは珍しくない
- 敷金がある物件でもクリーニング費用は入居者負担が多く、退去費用の総額は大きく変わらない
- 敷金ゼロは「先払いから後払いへの変更」に近く、トータルコストはほぼ同じ
- 敷金・礼金をゼロにしている物件ほど、短期解約違約金が設定されやすい傾向がある
- 礼金ゼロは返ってこない費用がなくなる純粋なコスト削減になる
- 敷引き・償却のある物件は要注意。敷金の返還条件を契約書で必ず確認する
- 初回保証料・消毒料・サポートサービス料・鍵交換費用など、見積もりの全項目を必ず確認する
