敷金償却とは?
返ってこない理由と退去時に確認すべき注意点

賃貸物件の初期費用に「敷金償却」や「保証金償却」という項目が含まれている場合、退去時に敷金(保証金)の一部または全額が返ってこないことを意味します。実質的には礼金と同じ性質のお金ですが、名称が異なるため見落としがちです。

この記事では、敷金・保証金の償却(敷引き)とはどういう意味なのか、原状回復費との関係、そして「償却1ヶ月」「償却50%」といった具体的な表記の読み方まで、賃貸契約の実務に詳しい立場からわかりやすく解説します。

敷金・保証金の償却イメージ

最終更新日:2026年05月26日

「償却」とはどういう意味か

賃貸契約書や重要事項説明書に「敷金償却」「保証金償却」という言葉が登場することがあります。まず「償却」という言葉の意味を確認しておきましょう。

償却(しょうきゃく)とは
本来は会計・税務の用語で、固定資産の価値が時間とともに目減りする分を費用として計上する「減価償却」が代表的な使われ方です。
賃貸契約における「償却」は意味が異なり、預け入れた敷金や保証金のうち、一定額を家主が受け取る権利があること(返金されないこと)を指します。「相殺(そうさい)」とは別の概念ですので混同しないよう注意が必要です。

わかりやすく言い換えると、「敷金を預けても、うち○ヶ月分は戻ってきません」という取り決めが、敷金の償却(敷引き)です。

敷金・保証金・敷引きの違いと基本の意味

償却を正しく理解するには、まず敷金・保証金・敷引きそれぞれの言葉の意味を整理しておく必要があります。

敷金とは

敷金とは、賃貸借契約において借主が貸主に預ける担保金です。家賃の滞納や退去時の原状回復費用に充当するためのお金で、使わなかった分は退去時に返金されるのが原則です。

保証金とは

保証金は敷金と同じ担保的な性質を持つお金ですが、主に関西エリアや商業物件で使われる名称です。

敷引きとは

敷引きとは、保証金のうちあらかじめ返還しないと定めた金額のことです。「償却」と同じ意味で使われます。「敷引き2ヶ月」なら保証金のうち家賃2ヶ月分を貸主が受け取り、残りが借主に返金されます。

整理:用語の対応関係
関東エリア → 「敷金」に「敷金償却」が設定される場合がある
関西エリア → 「保証金」に「敷引き(償却)」が設定される場合が多い
名古屋エリア → 関西に近いエリアながら、当社の営業エリアである名古屋では「敷金・償却」という表記の物件が比較的多く見られます
いずれも意味はほぼ同じ:「返ってこない担保金」の部分のこと

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償却は礼金と同じ意味になることが多い

敷金償却・保証金償却が設定された物件では、償却分は礼金と実質的に同じ性質になることが多いです。礼金は初期費用として最初から「返ってこないお金」として支払いますが、敷金償却は「いったん預けるが、一部(または全額)は返ってこない」という形を取るだけです。

たとえば「礼金0円・敷金1ヶ月(償却1ヶ月)」の物件と「礼金1ヶ月・敷金1ヶ月(償却なし)」の物件は、入居時に支払う金額がほぼ同じになります。「礼金なし」に見えても、償却によって実質的な負担が変わらないケースも少なくありません。

ただし、契約によってはハウスクリーニング費用などの借主負担が別途定められている場合もあります。その場合は償却に加えてさらに費用がかかるため、礼金と単純に同じとはいえないケースもあります。いずれにせよ、契約書に記載されている費用の全体像を確認することが重要です。

なお、礼金との違いを強いて挙げるとすれば、敷金として預ける形を取る以上、損耗が非常に少なかった場合などに「償却額を超える返金」を求めて交渉・争う余地が生じることがある点です(ただし実務上は難しいケースが多いです)。

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「敷金償却1ヶ月」「償却50%」の具体的な意味

賃貸広告や重要事項説明書に登場する具体的な表記の読み方を確認しておきましょう。

「敷金償却1ヶ月」の場合

具体例

家賃:70,000円 敷金:2ヶ月(償却1ヶ月)

入居時に預ける敷金:140,000円(70,000円 × 2ヶ月)

退去時に必ず差し引かれる償却分:70,000円(1ヶ月分)

退去時に戻ってくる最大金額:70,000円(残りの1ヶ月分)

※さらに原状回復費用がある場合は、残りの1ヶ月分からも差し引かれます。

「償却50%(半額)」の場合

具体例

家賃:70,000円 保証金:3ヶ月(償却50%)

入居時に預ける保証金:210,000円(70,000円 × 3ヶ月)

退去時に差し引かれる償却分:105,000円(210,000円の50%)

退去時に戻ってくる最大金額:105,000円

※原状回復費用がかかる場合は、さらに差し引かれます。

注意

「敷金2ヶ月・償却1ヶ月」と「敷金1ヶ月・礼金1ヶ月」は初期費用の合計がほぼ同じです。表記が違うだけで実質的な負担は変わりません。初期費用を比べるときは礼金と償却を合算して比較することが重要です。

償却があっても退去時クリーニング費用が必要な物件が多い

「償却があるから退去時に追加費用はかからないだろう」と思っている方も多いのですが、これは必ずしも正しくありません。

多くの物件では、償却と退去時のハウスクリーニング費用は別の取り決めとして設定されています。たとえば契約書に「敷金償却1ヶ月・退去時クリーニング費用別途借主負担」と記載されている場合、以下のような費用構造になります。

費用の種類 金額の目安 内容
敷金償却 家賃1〜2ヶ月分 貸主が無条件に受け取る。返金なし。
ハウスクリーニング 30,000〜100,000円程度(間取りによる) 退去後に業者が行う室内清掃。借主負担とする契約が多い。
原状回復費用 損耗・損傷の程度による 故意・過失による汚れや傷の修繕費。借主負担。

つまり「償却=退去費用の全額」ではないという点に注意が必要です。契約書には償却の他にどのような費用が設定されているかをしっかり確認しましょう。

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償却と原状回復費の関係:故意・過失の費用は別途請求される

「償却を払えば、退去時に何をしても追加請求されない」というのは誤解です。

償却はあくまで「通常使用による経年劣化分」や「自然な消耗」を貸主が受け取る対価として設定されることが多く、借主の故意・過失による損耗は別途請求されます。

損耗の種類 償却で賄えるか 具体例
通常損耗・経年劣化 対象になるケースが多い 日焼けによる変色、画鋲の跡(通常範囲)、自然な床の傷み
借主の故意・過失 対象外。別途請求される ペットによる傷・臭い、大きな穴、水漏れ放置によるカビ・腐食、タバコのヤニ
注意

契約書によっては「償却に加え、故意・過失による損傷の修繕費も借主負担」と明記されていることがあります。入居前に傷や汚れを写真に記録しておくことが重要です。

また、「償却があるから少々のことは大丈夫」と思って入居すると、退去時に予想外の追加請求が来るケースがあります。ガイドラインには明確なルールが定められていますが、償却と原状回復の線引きは物件によって契約内容が異なり、統一されたルールがあるわけではありません。

ポイント

国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、通常損耗の修繕は貸主負担が原則とされていますが、償却の設定がある物件では契約書の条文が優先されることが多く、内容の確認が不可欠です。

短期解約でも償却は発生する

「すぐ退去するなら償却額が少なくなるのでは?」と思う方もいますが、償却は居住期間の長さに関わらず、契約で定めた金額が発生します。1ヶ月で退去しても2年居住しても、償却額は同じです。

さらに注意が必要なのが「短期解約違約金」の存在です。多くの物件では、入居から一定期間(1〜2年未満)で解約した場合、通常の償却に加えて短期解約違約金が発生する契約になっています。

具体例

【契約条件】保証金3ヶ月・償却1ヶ月・短期解約(1年未満)の場合はさらに1ヶ月の違約金

→ 入居6ヶ月で退去した場合:償却1ヶ月分が保証金から差し引かれるうえ、別途違約金として1ヶ月分の支払いが必要になります

→ 入居2年で退去した場合:償却1ヶ月分のみ差し引かれます(違約金は発生しません)

転勤の多い方や、将来的に引越しの可能性がある方は、契約書の短期解約条項を必ず確認することをお勧めします。

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償却なしの物件のほうが借主にとってメリットが大きい

同じ家賃・同じエリアで選べるなら、償却なし(敷引きなし)の物件のほうが借主にとって有利です。

償却あり(例:敷金2ヶ月・償却1ヶ月) 償却なし(例:敷金1ヶ月・礼金1ヶ月)
入居時の支払い 同額 同額
退去時の返金 最大1ヶ月分(原状回復費別途) 敷金全額から原状回復費を差し引いた額
条件が良い場合 最大1ヶ月分が戻る 最大1ヶ月分が戻る(同条件)
綺麗に使った場合のメリット △ 償却分は必ず差し引かれる ◎ 原状回復費が少なければ多く戻る

初期費用の合計が同じなら、退去時の清算で有利になる可能性がある「償却なし」の物件を選ぶほうが合理的です。ただし物件の立地・条件・家賃との兼ね合いも重要なので、初期費用の表記だけで判断せず、トータルで比較することが大切です。

ポイント
  • 賃貸探しでは「礼金+償却額」の合計で物件を比較する
  • 同条件なら償却なし物件のほうが長期的に有利
  • 償却がある物件は、退去時費用のシミュレーションを事前に行う

よくある質問

Q. 敷金償却と礼金は何が違うのですか?
A. 実質的な性質はほぼ同じで、どちらも「返ってこないお金」です。礼金は最初から「贈り物」として支払う費用ですが、敷金償却は一度預けた敷金のうちの一定額を貸主が受け取る取り決めです。初期費用を比較するときは、礼金と償却を合算した金額で判断するのが正しい方法です。
Q. 「償却」があれば、退去時に追加費用は発生しませんか?
A. そうとは限りません。多くの物件では、償却とは別にハウスクリーニング費用や、故意・過失による損傷の修繕費が借主負担として設定されています。契約書に「償却1ヶ月・退去時クリーニング費用別途」と記載されている場合は、双方がかかります。必ず契約内容を確認してください。
Q. 入居してすぐ退去しても、償却は全額引かれますか?
A. はい、基本的には居住期間に関わらず契約で定めた償却額が差し引かれます。さらに短期解約の場合は違約金が別途発生することもあります。入居から1〜2年以内の退去を検討している場合は、契約書の短期解約条項を必ず確認することをおすすめします。
Q. 「償却50%」とはどういう意味ですか?
A. 預けた敷金・保証金の50%が、退去時に貸主に渡るという意味です。たとえば保証金が20万円の場合、10万円が差し引かれます。残りの10万円から原状回復費用が充当され、余った分が返金されます。
Q. 敷金の償却について、明確なルールや法律は存在しますか?
A. 償却の金額や条件に関して法律上の明確な上限規定はなく、契約内容によって大きく異なります。ただし過去の裁判例では、保証金の大半を償却する契約が「消費者契約法」違反と判断されたケースもあります。償却割合が高い物件は慎重に検討することをおすすめします。

まとめ:敷金・保証金の償却で知っておくべきこと

  • 「償却」とは、預けた敷金・保証金のうち返金されない金額のこと(関西では「敷引き」とも呼ぶ)
  • 償却分は実質的に礼金と同じ性質。礼金と合算して初期費用を比較することが重要
  • 「償却1ヶ月」なら家賃1ヶ月分が、「償却50%」なら預け金の半額が返ってこない
  • 償却があっても退去時クリーニング費用や故意・過失による損傷の修繕費は別途請求される物件が多い
  • 居住期間が短くても償却額は変わらない。短期解約の場合は違約金が加算される場合もある
  • 同条件なら償却なしの物件のほうが借主にとって有利
  • 契約前に「礼金+償却+想定される退去費用」をトータルで確認することが大切

栗田伸裕のプロフィール写真
執筆者
栗田 伸裕

株式会社マチラボ 代表取締役

1級FP技能士
宅地建物取引士
マンション管理士
賃貸不動産経営管理士

これまで1,000件以上のお部屋探しをサポートしてきた賃貸仲介の実務経験をもとに、賃貸契約や初期費用、退去費用など賃貸に関する情報をわかりやすく解説しています。1級ファイナンシャルプランナーおよび宅地建物取引士としての知識を活かし、家賃だけでなく初期費用や更新費用、退去費用なども含めた「総合的な住居コスト」を意識したお部屋探しのアドバイスを行っています。また、名古屋出身で名古屋の賃貸市場やエリア特性にも精通しており、地域事情を踏まえた現実的で正確な情報提供を心がけています。