私の経験上、代理契約についての誤解は非常に多く、「名義貸し」との違いを理解しないまま進めてしまうとトラブルにつながるケースもあります。この記事では、親名義で賃貸契約を結ぶ仕組みや認められやすいケース、必要書類から本人名義への変更方法まで、賃貸仲介の実務経験をもとに解説します。
親名義の賃貸契約(代理契約)とは
親名義の賃貸契約とは、契約者を親、実際に住む入居者を子として結ぶ契約形態のことで、実務上は「代理契約」と呼ばれます。契約書の名義人と実際に住む人が異なるため、申込の段階で「契約者は親、入居者は子」であることを不動産会社・管理会社へ正しく申告する必要があります。
- 契約者=家賃の支払い義務を負う人
- 入居者=実際にその部屋に住む人
- 代理契約では、この2つの立場が親子で分かれる
ここで重要なのは、すべての物件で代理契約が認められるわけではないという点です。貸主・管理会社・保証会社のいずれかが代理契約に対応していない場合、希望しても契約できません。
代理契約と混同されやすいのが「名義貸し」です。名義貸しとは、親が実際に住むと申告しておきながら、実態としては子だけが住む契約を指します。これは事前申告義務に反する契約違反にあたり、発覚した場合は契約解除や退去を求められるリスクがあります。親名義で契約する際は、必ず「入居者は子である」ことを正直に申告してください。
そもそも親名義での申込を受け付けている物件は多くない
「審査が不安だから最初から親名義で申し込もう」と考える方がいますが、これは実務上あまりおすすめできません。理由は単純で、そもそも本人名義以外での申込自体を受け付けていない物件がほとんどだからです。私の経験上、当社が取り扱う物件では、学生の代理契約を除くと9割程度が親名義契約に対応していません。
さらに、仮に代理契約に対応している物件であっても、申込段階で「なぜ本人名義で契約しないのか」を管理会社から不安視されることがあります。収入・勤務先・信用情報など、本人に何か問題があるのではないかと警戒され、かえって審査が慎重に進められるケースもあります。
審査に不安がある場合でも、いきなり親名義で申し込むのではなく、まずは本人名義で申し込むのが基本です。本人名義での審査が難しかった場合に、はじめて親名義(代理契約)での対応が可能かを管理会社へ確認する、という順序で進めることをおすすめします。
なお、代理契約に対応している物件で実際に申込を進める場合も、審査そのものが甘くなるわけではありません。保証会社と管理会社・貸主による審査は通常どおり行われ、主に次のような項目が確認されます。
- 親の年収・勤務先・勤続年数・年齢
- 親の収入と家賃のバランス(家賃の30〜35%程度が目安とされることが多い)
- 実際に住む子どもの属性(学生か社会人か、収入の有無など)
実際に住むのは子どもであるため、管理会社によっては子ども側の状況も審査材料に含める場合があります。また、多くの物件では保証会社への加入が別途必要になるため、「親名義にすれば保証会社の審査が不要になる」ということもありません。
ここで押さえておきたいのは、保証会社と管理会社・貸主とでは、審査で見ているポイントが異なるという点です。保証会社は基本的に契約者である親の支払い能力を審査します。一方、管理会社や貸主は、実際にその部屋に住む入居者、つまり子どもの属性を見ます。そのため、保証会社の審査に通っても、管理会社や貸主が入居者側をトラブルになりそうだと判断すれば、その時点で申込を断られることがあります。例えば、無職であるにもかかわらず一人暮らしを始める、入居について合理的な理由が説明できない、といったケースは、管理会社・貸主の審査で警戒されやすい傾向があります。
- 本人名義以外の申込自体を受け付けていない物件がほとんど
- 親名義での申込は、管理会社に不安視されることがある
- 審査が不安でも、まずは本人名義で申し込むのが実務上の基本の流れ
- 代理契約に対応していても、審査に通る保証はない
親名義契約が認められることがあるケース
本人名義での申込が基本とはいえ、実際に親名義(代理契約)が認められやすいケース、あるいは検討する余地があるケースもあります。
未成年者の一人暮らし
未成年者は単独で法律行為である賃貸借契約を結べないため、親権者の同意または親名義での契約が必要になります。これは代理契約が必須に近い、数少ないケースです。一方、成年年齢の18歳への引き下げにともない、大学生や専門学校生であっても申込時点で18歳以上であれば、就職の場面と同様に本人名義での契約が基本という扱いに変わってきています。実務上は、本人名義で契約したうえで親を連帯保証人に立てる形が一般的です。
無職・求職中、フリーター・収入が少ない場合
本人に安定した収入がない、または家賃に対して収入が不十分な場合、親名義での契約を希望する方もいらっしゃいます。ただし前述のとおり、まずは本人名義での申込を試すべきです。フリーターやアルバイトの方でも収入次第で本人名義のまま審査が通ることは珍しくなく、本人名義での審査が難しかった場合にはじめて、親名義の代理契約に対応してもらえる物件があるかを個別に確認する流れになります。
一方で、次のようなケースでは親名義にする必要はありません。
新社会人・内定者、転職直後のケース
新社会人や内定者は、内定通知書や雇用条件通知書の提出によって本人名義で審査を受けられる物件が多く、必ずしも親名義にする必要はありません。転職直後・退職直後についても、次の勤務先が決まっていれば本人名義で進められるケースがあります。本人名義で契約できるのであれば、親名義にする積極的な理由はありません。
親を「契約者」にする場合と「連帯保証人」にする場合の違い
審査に不安がある場合の選択肢は、親名義(代理契約)だけではありません。本人名義で契約し、親を連帯保証人として立てる方法もあり、実務ではこちらの方が一般的です。両者の違いを整理します。
- 親が契約者になる場合:契約手続き・更新・解約はすべて親が行い、家賃支払い義務や退去費用の負担も親が直接負う
- 親が連帯保証人になる場合:契約者は本人のまま。親は本人が支払わない場合にのみ支払い義務を負う
連帯保証人の責任範囲は、法律によって明確に定められています。2020年施行の改正民法第465条の2により、個人が連帯保証人となる場合には、契約書に「極度額(保証の上限額)」を明記することが義務付けられました。極度額の記載がない保証契約は無効となるため、連帯保証人が際限なく責任を負うことはありません。極度額の考え方については、国土交通省が参考資料を公表しています。
外部リンク:国土交通省「賃貸住宅標準契約書」について(極度額に関する参考資料)
なお、近年は保証会社の利用が募集条件となっている物件が多く、保証会社に加入すれば連帯保証人自体が不要になるプランも増えています。賃貸保証会社とは?加入が必要な理由・仕組み・連帯保証人との違いを解説もあわせてご覧いただくと、保証会社と連帯保証人の役割の違いがより分かりやすくなります。
また、契約者・入居者・連帯保証人のほかに「緊急連絡先」という立場もあります。緊急連絡先には金銭的な支払い義務がなく、連帯保証人とは役割が異なります。
賃貸の緊急連絡先とは?役割・条件・連帯保証人との違いを宅建士が解説
親名義契約は「名前を貸すだけ」ではなく契約者としてすべての責任を負う
親名義(代理契約)の場合、契約書上の名義人はあくまで親です。つまり親は「名前を貸しているだけ」の立場ではなく、契約者として次のようなすべての責任を負うことになります。
- 毎月の家賃支払い義務(滞納が発生した場合、請求は契約者である親に届く)
- 退去時の原状回復費用の負担
- 契約違反が発生した場合の責任
- 更新・解約の手続き(親が直接対応する必要がある)
実務上、家賃の引き落とし口座やお支払いに使うクレジットカードは契約者本人(親)名義を求められることが一般的です。子どもの口座から家賃を支払うこと自体は運用として可能な場合もありますが、契約上の支払い義務者はあくまで親であることに変わりはありません。「名前だけ貸す契約」ではなく、契約者としての責任がともなう点を理解しておく必要があります。
また、親が高齢の場合は審査上の注意点もあります。契約者の年齢に上限を設けている管理会社もあり、年金生活の親を契約者にした場合、収入と家賃のバランスが厳しく見られることがあります。高齢の親を契約者にすれば有利になるとは限らず、むしろ本人名義で契約したうえで親を連帯保証人に立てる方が審査を通しやすいケースもあります。契約者を誰にするかは、単に「親だから安心」と決めるのではなく、実際の収入状況をふまえて判断することをおすすめします。
必要書類と契約の流れ
代理契約で一般的に求められる書類は次のとおりです。
- 親:本人確認書類、収入証明書、勤務先情報
- 子:本人確認書類、学生証・在学証明書、または合格通知書・内定通知書
- 住民票や続柄を確認できる書類(管理会社によって求められる場合がある)
申込の流れとしては、まず物件探しの段階で親名義契約を希望していることを伝え、申込前に管理会社が代理契約に対応しているかを確認します。対応可能であれば、親を契約者・子を入居者として正しく申告したうえで、保証会社・管理会社・貸主の審査を受ける流れになります。契約手続き自体は親が行う必要がありますが、電子契約や郵送契約に対応している物件であれば、遠方に住む親でも来店せずに契約できるケースがあります。
親名義から本人名義への変更はできる?
就職などを機に、親名義の契約を本人名義へ切り替えたいと考える方もいます。ただし、単純な名義変更で済むケースは多くありません。実務上は新たな入居審査が必要になり、再契約という扱いになることが一般的です。その場合、契約金や事務手数料が再度発生する可能性もあります。名義変更を検討している場合は、切り替えのタイミングで事前に管理会社へ確認しておくことをおすすめします。
本人名義での審査が不安な場合はどうする?
収入に不安がある場合でも、本人名義のまま契約できるケースは実際に多くあります。親名義を検討する前に、まずは本人名義でどこまで審査を通せるかを確認することが実務上の近道です。アルバイト・フリーター、フリーランス・自営業の方向けに、審査のポイントを別記事でまとめていますので、あわせてご確認ください。
アルバイトでも賃貸の審査は通る?必要書類・家賃目安・通過のコツを解説
フリーランス・自営業の賃貸審査|通るための書類・収入基準・1年目の対策を不動産会社が解説
なお、法人が契約者となる「法人契約」は、代理契約とは審査の仕組みや必要書類が異なります。会社の社宅として借りる場合などは、こちらもあわせてご確認ください。
賃貸の法人契約とは?個人契約との違い・審査・必要書類・注意点を不動産会社が解説
まとめ
- 本人名義以外の申込自体を受け付けていない物件がほとんどで、当社の取扱物件でも学生以外の代理契約対応はごく少数にとどまる
- 審査に不安があっても、いきなり親名義にせず、まずは本人名義で申し込むのが実務上の基本
- 親が住むと偽って子だけが住む契約は「名義貸し」にあたり、契約違反のリスクがある
- 18歳以上であれば、大学生・専門学校生でも本人名義での契約が基本になりつつある
- 親を契約者にするか連帯保証人にするかで、負う責任の重さが大きく異なる
- 親名義から本人名義への変更は、単純な名義変更ではなく再契約扱いになることが多い
